乳がん
乳がんは年齢別にみると、30歳を超えると増加しはじめて40代後半にピークを迎え、高い罹患率が70代後半まで続きます。
2019年の乳がんによる死亡者数は1万4千人を超えています。厚生労働省の調査で、乳がんによる死亡者数は1958年と比べ2013年には8倍になったと報告されており、現在も引き続き増加傾向にあります。
女性は生涯を通じて11人に1人が乳がんになると指摘されており、20代から100歳を超えるまでという幅広い年代で発症しています。早期発見のためには、年齢に関わらずセルフチェックと定期的な検診が重要です。
乳房と乳がん
乳房は、母乳をつくる乳腺とその周囲の脂肪組織で構成され、乳がんが発生するのは乳腺組織です。乳腺はさらに、母乳をつくる乳腺小葉と、母乳を乳首まで運ぶ乳管に分けられます。乳がんの多くは乳管に発生しますが、乳腺小葉からも発生することがあります。悪性腫瘍であり、早期には乳腺組織だけにとどまる非浸潤性乳がんですが、進行すると乳管や乳腺小葉の周囲へ広がり浸潤性乳がんになります。また、乳房周囲のリンパ節や全身の臓器に転移することもあります。
乳がんとエストロゲン(女性ホルモン)
乳がんの発生には、女性ホルモンであるエストロゲンが深く関与しています。体内のエストロゲンが多いと、乳がん発生のリスクが高くなります。経口避妊薬や補充療法などで長くエストロゲンを摂取した場合も同様です。初経年齢が低い・閉経年齢が高い、出産経験がないなどで生理の回数が多いとエストロゲンにさらされる期間が長くなり、乳がん発生に関係すると考えられています。 また、エストロゲンは40歳くらいから分泌が大幅に低下しはじめますが、それに合わせるように乳房組織にエストロゲンの受容体が増えます。この受容体は加齢によって乳腺が萎縮しても残ります。閉経して卵巣からエストロゲンが分泌されなくなっても、脂肪細胞からはエストロゲンがつくられます。このため、70~80代の乳がん発生も珍しくありません。エストロゲンが脂肪細胞からつくられるため、脂肪の多い食生活も乳がん発生のリスクにつながるとされています。
あらゆる年代の女性には乳がん発生のリスクがあります。ただし、乳がんは早期に発見できれば他のがんと比べて治療しやすいといわれています。セルフチェックをしっかり行うとともに、検診を定期的に受けて早期発見に努めましょう。
乳がんの早期発見
増殖した乳がんのがん細胞は、触れると「しこり」として感じられることがあります。乳がんの多くがしこりをきっかけに発見されています。ほかに、乳房のえくぼのようなひきつれ、皮膚のただれ、左右の形に差ができる、乳頭からの分泌物といった症状もあります。乳がんを早期に発見するために、定期的にしこりの有無を確かめるセルフチェックをすることはとても重要です。 乳がんが進行すると増殖したがん細胞が血液やリンパの流れに乗って肺・肝臓・脳・骨などに転移し、命に関わる可能性が高くなってしまいます。また、適切な治療を行った場合でも、診断時に進行していた乳がんでは再発する可能性が高くなります。
セルフチェック、定期的な検診により、早期発見に努めることが大切です。
このような症状があるときは、すぐに受診しましょう
- 乳房にしこりがある
- 乳房の皮膚にくぼみや引きつれ、色の変化がある
- 乳房の形が左右で変わってきた
- 乳頭の陥没や変形がある
- 乳頭に湿疹、びらん(ただれ)がある
- 乳頭から分泌物が出る
早期治療につなげるために
乳管や乳腺小葉にがん細胞がとどまっている非浸潤性乳がんの段階で発見できれば、現在ではほとんどの場合治せるようになっています。初期の乳がんでは自覚症状がほとんどなく、マンモグラフィやエコーなどの検査を行わないと発見が難しいこともありますが、セルフチェックを行うことで2cm以下のしこりを発見できるケースも少なくありません。
Ⅰ期(転移がなく大きさが2cm以下の乳がん)で発見され適切な治療を受けた場合、10年後の生存率は約95%です。しかし進行するにつれて治療後の生存率は低下しますので、セルフチェックと定期的な検診を行いましょう。
マンモグラフィについて
当院でマンモグラフィをお受けいただけます。女性技師が検査を行いますので、ご安心ください。
また3Dマンモグラフィをお受けいただく場合は、連携先である南ヶ丘病院で受けていただいています。
特定医療法人 扇翔会 南ヶ丘病院
住所 | 〒921-8847 石川県野々市市西部中央土地区画整理事業施行地区56街区1番 |
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電話 | (076)256-3366 |
FAX | (076)256-3346 |
URL | https://www.minamigaoka-hp.or.jp/ |
乳がんに似た症状の疾患
乳房のしこりは、乳がん以外の疾患で生じることがよくあります。実際に、乳房のしこりの8割以上が良性腫瘍です。ただし、乳がんだった場合、しこりを放置すると治せる可能性が低下してしまいます。しこりを見つけたら、速やかに乳腺外来を受診し、検査を受けることをおすすめします。
下記でしこりを生じる乳がん以外の疾患を紹介していますが、その特徴は傾向であり、当てはまった場合でも乳がんの可能性がないということではありません。しこりに気が付いたら早めにご相談ください。
乳腺線維腺腫
乳腺の良性疾患では最も発症頻度が高く、10~30代に発症が多い傾向があります。しこりの大きさは1cm未満から数cmまで幅広く、触れるとコリコリしていて動きます。しこりが複数できることもあります。しこりが大きい場合には治療を検討しますが、ほとんどの場合経過観察となります。
乳腺症
女性ホルモンの影響によって周期的に繰り返す乳腺組織の良性の変化のことで、30~40代に多くみられます。境界があいまいなことが多く、ゴリゴリした感触です。また、生理前に痛みや張りを感じることもあります。
乳腺のう胞
乳管が閉塞し、液体がたまった袋のようなものことをのう胞といいます。小さいものでは触れられないこともありますが、分泌物がたまることで大きく緊満するとやや硬くなり、触れるようになります。また、のう胞内に感染して痛みや腫れ、熱感などを生じることもあります。乳腺症の症状として乳腺のう胞が現れることもあります。
乳腺炎
授乳期に発生しやすい疾患です。乳汁が詰まったり、授乳中に乳頭が傷付いたりすることで細菌に感染し、乳腺が炎症を起こしている状態です。炎症が起きている部分は硬く触れ、乳房の腫れ、痛み、赤み、熱感などを伴います。
乳管内乳頭腫
乳管内に発生する良性腫瘍で、30代後半から50代の発症が多くなっています。乳輪近くにしこりができ、乳頭からの分泌物が出ることがあります。透明や黄色だけでなく、赤や茶色の血液が混じったものが出ることもありますが、乳がんでも同様の血性の分泌物を認めることがあるため、詳しい検査が必要です。
葉状腫瘍
良性腫瘍である線維腺腫に似たしこりとして見つかることが多い疾患です。線維腺腫と違い急激に大きくなることがあり、そのような場合は画像検査、組織検査を行い診断を確定します。悪性の葉状腫瘍は再発を繰り返すこともあり、切除したあとも定期的な検査が必要になります。
乳がんリスクについて
乳がんになりやすいリスクファクターは統計調査で明らかになっており、乳がんの発症は、遺伝的な要素だけではなく、生活習慣、ライフスタイルなどの影響を受けると考えられています。リスクファクターがあると必ず乳がんになるということではありませんが、該当する項目が多い方はセルフチェックや定期的な検査の重要性がより高いと言えます。
- 乳がんになったことがある
- 乳がんになった血縁者がいる
- 出産経験がない
- 初潮が早い、閉経が遅い
- 肥満(特に閉経後の肥満)
- 長期間、ホルモン補充療法を受けている
- 喫煙している
- アルコールの摂取量が多い
セルフチェックによる自己検診と定期的な検診
乳がんはセルフチェックや定期検診で早期発見が可能です。そして早期に確定診断を受けて適切な治療を行えば治る可能性が高い病気です。また診断時のがんの状態によっては乳房の形を大きく損なわないような手術を選択できる場合があります。また侵襲の少ない手術ができれば後遺症などの可能性も低くなる場合があります。ご自分の未来のために、そしてご家族や大切な方のために、セルフチェックによる自己検診と定期的な検診で早期発見のチャンスを逃さないようにしましょう。